絹ができるまで

絹(シルク)は、蚕(幼虫)の繭から糸をつむいでつくられる「天然素材」。たくさんの人たちが関わり、さまざまな作業を経て、唯一無二の魅力が生まれます。シルクができるまでにどのような作業が必要なのか、その工程を追ってみましょう。

桑を栽培し蚕を育てる
「養蚕(ようさん)」

良い糸がとれる繭をつくるためには、温度、湿度、換気などに注意し、蚕を大切に育てなければなりません。シルクづくりは、蚕の大好物である桑を栽培したっぷり栄養のあるエサを与え、元気いっぱいの蚕を育てることからはじまります。

桑を栽培する

蚕のエサになる桑の木には1,000以上の種類があり、北半球の温暖・多湿な地域に広く分布しています。桑の葉には、タンパク質や炭水化物、脂肪、ビタミン、ミネラルなど蚕の成長に必要な栄養素がたっぷり含まれていますが、その種類によっても繭の品質が違ってきます。日本の気候は桑の栽培に適しており、「清十郎」「一之瀬」「しんいちのせ」など水分と栄養をたっぷり含んだ優れた品種を生み出してきました。

桑の実って美味しいの?

桑の木に実る濃い紅色の実はマルベリーとも呼ばれ、中国では漢方薬として使われています。ラズベリーのような甘みと酸味で美味しい果実ですが、色素が濃いので衣服や手につくと、なかなか落ちません。

蚕を育てる

蚕は一生の間に、卵⇒蚕⇒蛹(さなぎ)⇒成虫へとその姿を変えます。 蚕種(蚕の卵)の製造業者は、メスとオスを交尾させた後にメスの成虫をとりだし、ノリをひいた紙の上に産卵させます。 卵から孵化したばかりの蚕は体長3mmほどの小さな幼虫ですが、約25日間の間に脱皮を4回繰り返し、1万倍の重さに成長します。桑の葉を食べなくなり身体が透き通るように変化した蚕は、繭をつくるために仕切られた「回転蔟(まぶし)」に振り分けられます 。安全な場所で蚕は糸を吐いて繭をつくり、繭の中で脱皮して蛹になり、成虫になる前に繭を出荷します。

大切に育てられた「お蚕さん」

養蚕が盛んだった昭和。菓子パン1個、切手1枚が15円だった頃に、蚕1頭が10円だったという話が残っています。養蚕農家の人たちは蚕を「お蚕さん」と呼び大切に育てていました。

繭から生糸をつくる
「製糸(せいし)」

繭を乾燥させ糸を引き出し、数個の繭からほぐした糸をあわせて生糸(きいと)をつくります。主な工程に「乾燥」⇒「選繭」⇒「煮繭」⇒「繰糸」⇒「揚返し」があります。

乾燥・貯繭(ちょけん)

製糸工場では、農家から運び込まれた繭をすぐに蒸気の熱で繭を乾燥させます。蛹の成長やカビの発生・腐敗を防ぐことが目的です。蚕は繭になってからおよそ12日間で羽化してしまうため、大急ぎで乾燥させなければなりません。
乾燥した繭は、その性質を安定させるため少なくとも1か月以上は温度・湿度が管理された繭倉庫に貯蔵されていました。

乾燥は時間との戦い

繭の入荷は5月から9月にかけて4~5回あり、短期間に集中します。繭が成虫になってしまう前に乾燥させなければならないので、入荷時期の製糸工場は時間とのたたかい。2交替で24時間休みなく稼働し、目のまわるような忙しさでした。

選繭(せんけん)

繭の品種や状態によって、シルクの光沢や質感が決まります。製糸にむかない虫食いの繭や汚れた繭などは取り除き、見ただけでは判断ができないため、ベルトコンベアで繭を蛍光灯で下から照らし、熟練の職人が光りに透かされた繭を観察し、形状や内部の異常を判断して選別していました。

ムダは出しません

糸の原料にならない繭は別の業者に引き取られ、生糸にならなかったものは全て副蚕物(ふくさんぶつ)として再利用されます。一方、糸を引いた後の蛹は鯉のエサになり、加工する際に余ったクズは釣りエサになるのです。

煮繭(しゃけん)

たくさんの糸が絡み合って繭をつくっていますが、この糸同士を接着しているのがセリシンという物質です。水に溶けやすい性質をもつセリシンを煮ることで、接着を緩めて、繭をほぐしやすくする目的があります。ボイラーでバルブを調整し、セリシンが完全にお湯に溶けだしてしまわないよう慎重に温度管理を行いながら繭を煮ます。

熟練のボイラーマン

繭がうまく煮えるか煮えないかで、糸の柔らかさなどの品質が決まってしまうというくらい重要な工程です。機械化が進んでからはセンサーで管理していましたが、機械が導入される前は熟練のボイラーマンが作業にあたっていました。

繰糸(そうし)

煮ることでほぐれやすくなった繭の表面を、みご箒(稲の穂先で作ったほうき)で撫で、糸口を探し出します(索緒)。
そして、いくつかの繭の糸口を何本かよりながらまとめていき(繰糸)、目的の太さ・長さの1本の糸にしていきます。乾燥すると再びセリシンの効果が蘇るため、よられた糸が接着し強い絹糸になるのです。

自動繰糸機の開発

繰糸は昭和初期まで手作業で行われていました。1951年(昭和26年)、世界に先駆けて熊谷工場に導入されたK8型自動繰糸機が、製糸の工業化(自動化)を実現したのです。機械を監督するのはもちろん熟練の職人ですが、新しい機械では1度に1人200本の糸を繰ることができ、作業の効率化が進められました。

揚返し(あげかえし)

繰糸で巻き取られた生糸は130%ほど無理に引き伸ばされて乾燥しているため、そのままの状態にしておくと、弾力性に乏しく切れやすい糸になってしまいます。生糸を本来の状態に戻し、強さ、光沢、柔軟性、風合いなどを整える作業が、「揚返し」です。
まずは糸を湿らせ(小枠湿し)、セリシンの接着力を弱めてほぐれやすくし、低張力で大枠に巻き取ります。その後、水分量を安定させるために温度20~30度、湿度70~80%に調整された湿気室で一晩寝かせ、安定した状態に整えます。

品位検査で生糸の格付けを行う

生糸はシルク製品にする前に、国の定めた検査を受けることが義務付けられていました。検査には「品位検査」と「正量検査」があり、品位検査によって生糸の格付けがおこなわれます。繭の質は季節や環境はもちろん、工場内での管理によっても状態が変わってくるため、工場内での品質管理は慎重に行われていました。

シルク製品へ

こうしてつくられた生糸の多くは製糸工場から出荷され、シルク製品へ加工されます。シルク製品には、主に「織物」と「編物」がありますが、その加工方法によっても風合いや光沢が違ってきます。 古くから高級品として珍重にされてきたシルク製品ですが、その工程を辿ると、さらにその価値が実感できると思いませんか? シルク製品は、蚕が育んだ自然の恵みから、人の知恵と技術で手間暇かけてつくられるのです。